
日本で“鯛”といえば真鯛のこと。姿、形、味と三拍子そろっているため、七福神の恵比寿さまが小脇にかかえているように、昔から祝い魚として用いられてきました。
真鯛以外の鯛の仲間は黒鯛など10種類余り。日本では甘鯛、金目鯛など、鯛と名のつく魚は非常に多くありますが、どれも鯛好きな日本人にあやかってつけられた名前であり、そのほとんどが鯛の仲間ではありません。
桜の開花時期から初夏にかけての真鯛は、産卵を控えて餌をたっぷり食べるため、脂がのっておいしいだけでなく、メスの体はきれいな桜色に輝くことから“桜鯛”と呼ばれ、珍重されています。今月訪れた和歌山市加太は、紀伊半島の最西端に位置し、鯛の一本釣りで名高い自然豊かな漁師町。瀬戸内海国立公園である友ケ島の美しい景観や3月3日のひな流しで有名な淡嶋神社などでも知られています。

加太の鯛が美味しい理由を、活魚料理「いなさ」の二代目稲野雅則さんにお聞きしました。
「魚の味は餌によって決まります。紀伊水道の両岸には河川が多くあり、プランクトンの餌となる栄養分が豊富に山から流れ落ちるため稚魚が育ちやすいといえます。
また、水質がいい加太の海にはミネラルを含んだ海藻も多く、これを餌にする貝や海老などもうまい。それらをたっぷり食べて育つ加太の鯛は栄養も味もいい。食物連鎖が好漁場を育んでいるのです。さらに、加太、友ケ島付近は渦もできないほど潮の流れが速い。稚魚の時からこの潮にもまれて育つ加太の鯛は筋肉が引き締まっているから、食べたときの歯ごたえが違います。
もう一つ忘れてはいけないのが、加太漁港では約200隻の漁船が実に年間300日も出漁しているということ。一本釣りにこだわる働き者の漁師さんたちがいるからこそ、うまい鯛料理も作れるわけです。
早潮の中で軽いおもりの下に針と餌をつけただけの装備で、素早く鯛を釣り上げる“加太の一本釣り”は、まさに神業です」(稲野さん)。
水揚げされたばかりの鯛の活造りは、何もつけなくても噛むほどに口の中で旨味が広がるおいしさです。名物「鯛シャブ鍋」も、一度食べたら忘れられない格別な味でした。

真鯛は脂肪が少なく低カロリーでありながら、アミノ酸バランスの優れた良質のタンパク質を多く含み、消化吸収がよい食品です。
淡白ながら、旨味成分のバランスが良く、風味豊かな味わいの真鯛は、刺身はもちろん焼き物や煮付け、天ぷらとどんな料理にしてもおいしくいただけます。頭はかぶと煮に、中骨は潮汁に使うなど、余すことなく利用できるのもうれしいところ。おいしい鯛を見分けるコツを稲野さんにお聞きすると「上から見たら胴体がふっくら膨らみ、しっぽが太く、目が優しいことですね」とのこと。これから旬を迎える栄養たっぷりの“桜鯛”を、桜の花とともに食卓に登場させましょう。
写真提供:和歌山市役所、活魚料理「いなさ」(TEL:073-459-0118)