かつて春になると、北海道の沿岸に
ニシンの群れが大量に姿を現したことから、
“春告魚(はるつげうお)”とも呼ばれるニシン。
獲れたニシンは、頭と内臓を取り除いて干した
“身欠きニシン”に加工され、
日本各地に出荷されていました。
海から離れた会津地方も身欠きニシンが
もたらされた地域で、
今もニシンを使った郷土料理が
数多く伝えられています。

ニシンは、高脂肪、高タンパクの魚で、DHAやEPAなどの良質なオメガ3系脂肪酸(不飽和脂肪酸)を含んでいます。
冷蔵技術が発達していない時代には、干して保存性を高めた身欠きニシンが、日本各地にもたらされました。身欠きニシンは生よりも脂質、タンパク質、カルシウム、ビタミンDなども上まわり、貴重な栄養源として重宝されてきました。

四方を山に囲まれ、冬は雪に閉ざされる福島県会津地方も、身欠きニシンを日々の食生活に役立ててきた地域の一つです。昔は北の海の産物が、北前船で日本海に面した新潟に渡り、そこからさらに川を上って運ばれてきました。流通網の発達した現在でも、山椒漬けや味噌煮、含め煮、天ぷらなど、身欠きニシンを使った多彩な郷土料理が伝承されています。
なかでもユニークなのは、塩、麹(こうじ)、米をそれぞれ3対5対8の割合で混ぜ発酵させた漬け床に、身欠きニシンや旬の野菜を漬けて食べる“三五八漬け”です。精米時に出るくず米などを美味しく食べる方法はないかと考え、酒造りなどの手法からヒントを得て生まれた麹漬けの一つです。冷害や凶作に備えて食べ物を無駄にせず、一年を通じ賢く利用するための、米どころならではの食の知恵でもありました。

麹の発酵作用によって醸し出されるまろみと甘みが、三五八漬けの特徴です。栄養価的にも、発酵によって身欠きニシンに含まれているタンパク質は必須アミノ酸に変化して、旨みを増すばかり。米のでんぷんは脳のエネルギー源として欠かせないブドウ糖に、また麹菌が繁殖する際には、ビタミンB1、B2、B3などを作り出します。
北の海で獲れた青魚の栄養成分に、優れた発酵のちからが加わった身欠きニシンの三五八漬け。漬け床は魚だけでなく野菜も美味しくいただけますので、ご家庭でも試してみませんか。