今回は、その華麗なる技と美を
たっぷりとご紹介します。
鎌倉時代を代表する名品を
作りあげた技とは?
こちらはVol.01でもご紹介した国宝『浮線綾螺鈿蒔
絵手箱(ふせんりょうらでんまきえてばこ)』。
手箱は、もともと貴族たちが身の周りのものを入れる
ためのものでしたが、やがて、華やかな装飾を施し、
神様にささげるようにもなりました。鎌倉時代に作ら
れたこの箱は、まさに漆工技法の結晶です。
まずは蓋を開けてその裏を見てみましょう。箱の中に
秘められた美・・・。あらわれたのは、漆黒の面に咲
き競う、金色の繊細な草花です。
これは、「蒔絵(まきえ)」といって、漆の強い接着力
と仕上がりの美しさを最大限生かした技法のひとつ。
1200年ほど前から日本で独自に展開したもので、古
くから輸出されました。海外でも「Maki‐e」で通じ
るそうですよ。
「蒔絵」にはさまざまな種類がありますが、こちらは
基本技法のひとつ「研出蒔絵(とぎだしまきえ)」。
一体どうやって作るのでしょう? 順を追ってご紹介
しますね。「蒔絵」という名前のひみつもわかりますよ。
「研出(とぎだし)蒔絵」が
できるまで
① 漆器の表面に漆で文様を描きます。その時に使う
筆は、なんとネズミの毛で作ったものが最高品質なん
だそう!細くてもコシがあるので、粘りのある漆を扱
うのにもってこい。髪の毛よりも細い、繊細な線が引
けるんですね。
② 漆が固まらないうちに金粉を粉筒に入れて蒔きま
す。そう、「蒔絵」という名前のひみつはここにあり!
金粉を「蒔く」ことに由来しているのですね。金粉を
蒔くときにつかう粉筒は、かつては、鶴の羽根の軸で
作った筒が最良とされたとか。今は葦などで作られ、
筒の先に絹の布が貼ってあります。筒をトントンとは
じくと・・・ まあきれい。絹がふるいとなって金粉
が舞い落ち、漆で描いた文様が金色に生まれ変わるの
です。
③ 文様の上から全体を漆で塗り込めます。
④ 全体が固まったら、特別な炭(すみ)を使って金
粉の上を研ぎます。表面全体が平らになるように研ぎ
すすむと、漆の下からあらわれるのは・・・? さき
ほど蒔いた金の文様です。一面に漆を塗り込んで均一
に研ぐので、凹凸がなく、文様が漆の地に自然に溶け
込みます。
⑤ いよいよ最後の工程。油と鹿の角を焼いて作った
粉を指につけて磨き、光沢を出します。余分な油をぬ
ぐい、これにて完成!です。
手間暇かかっている!と驚くのはまだ早い。
実は、これまでの解説は全体の工程をかいつまんだも
のなんです。作り手の根気と情熱が詰まっているんで
すね。
ちなみに、漆を塗るには、コシのある専用の刷毛が必
要。その最良の材料として選ばれてきたのは、なんと
人間の髪の毛!女性の髪を長年かけて油分をぬいて作
るんですって。
それでは蓋をそっとしめて、
あらためて手箱を
眺めてみましょう。
表面は金のまぶしい輝き。実はこれも金粉をぎっしり
と蒔き詰めているのです。そして、白く艶めく上品な
丸い文様は・・・「螺鈿(らでん)」という技法が用い
られています。
素材はなんと貝!貝の輝く真珠層の部分を切り抜い
て、漆で貼りつけてあるんです。ほんの4cmほどの
丸紋は、4種類、13個もの貝のパーツでできていま
す。薄く割れやすい貝をこんなに小さく切り抜いて整
然と並べていくなんて、気が遠くなりそうですね。
螺鈿で使う貝は、夜光貝(やこうがい)や鮑(あわび)
など。南の海でとれた貝殻がはるばる運ばれて、素晴
らしい装飾に姿を変える。ロマンあふれる匠の技です。
室町時代になると、
「蒔絵」の世界も三次元に!
漆黒の背景に浮かぶ山並み。たなびく霞のあいまにの
ぞく山里。黒と金だけのシックな世界!
重要文化財、室町時代の『小倉山蒔絵硯箱(おぐらや
ままきえすずりばこ)』です。
山里の家や、水平にたなびく霞にご注目。背景まで表
面が平らですね。もうおわかりでしょうか? さきほ
どご紹介した、「研出蒔絵」の技法です。
別の部分を見てみましょう。
流水や家の輪郭、草木などは「平蒔絵(ひらまきえ)」
という技法です。「平蒔絵」とは? 「研出蒔絵」より
ちょっとシンプル。金を蒔いて文様を表わしたあと、
全体を漆で塗り込めるのではなく、文様部分にだけ漆
を塗って磨き上げたものです。なので、文様の部分が
少しぽっこりとしていますね。
さらに文様が盛り上がって見える技法が、「高蒔絵(た
かまきえ)」。木や岩を見てください。立体的に表現さ
れていますね。そのひみつは、金粉の下に下地や漆を
重ねていること。描かれた風景にぐっと奥行きが出ま
すね。
金粉や貝もくっつけるほど、強い接着力を持つ漆。その特性を生かした
技法はほかにもたくさん。サントリー美術館のサイトもぜひチェックしてみてくださいね!
次回からは、漆芸品に表された文様に注目していきます。どうぞご期待ください。