まるで西洋の油絵みたい?じつは、日本人画家が日本伝統の画材を使い、日本人向けに描いたものなのです。
今回は、この屛風に秘められた数奇な歴史をひもときます!
16世紀、大航海時代の覇者となったポルトガルとスペイン。カトリックの修道会は、世界各地での布教活動に情熱を注ぎました。そのうち、イエズス会の創立メンバーの一人が、ご存じフランシスコ・ザヴィエルです。ザヴィエルは、天文18(1549)年、日本に初めてキリスト教を伝えました。その後続々と宣教師が来日。キリスト像やマリア像を見せて布教しました。ルネッサンス以来の西洋画の技法を駆使したリアルな描写に、日本人は驚いたことでしょう。
キリスト教がやってきた!
「リアルに描く」西洋画の衝撃
宗教画の需要が高まるなか、1583年、画家でもあった修道士、イタリア人のジョヴァンニ・ニコラオがやってきます。そしてセミナリヨ(イエズス会の教育機関)で、日本人信者向けの絵画教室が始まりました。生徒たちは西洋の銅版画や油彩画を手本に宗教画をマスター。西洋の都市や王侯の姿なども描くようになります。これらは「初期洋風画」と呼ばれ、教科書でおなじみの《聖フランシスコ・ザヴィエル像》もその1枚です。
天正15(1587)年、豊臣秀吉が伴天連(バテレン)追放令を発令。しかしキリスト教の信仰は黙認され、秀吉は、キリシタン大名がヨーロッパに派遣した天正遣欧使節の少年たちにも謁見しています。しかし、徳川の時代となって間もなく、慶長19(1614)年、キリスト教の禁教令、および宣教師と信者の国外追放令が出されました。以降30年間、キリスト教弾圧の嵐が吹き荒れ、多くの「初期洋風画」が打ち捨てられたのです。
「初期洋風画」東西の絵画技術、
ここに出会う!
禁教令の前後、イエズス会はキリスト教への理解を求めて、幕府や有力な武家などに「初期洋風画」の屛風を贈ったといわれ、この「泰西王侯騎馬図屛風」もそのひとつと伝わっています。近年の調査で赤外線を当てたところ、金地の下に「金」という文字があることがわかりました。「ここに金箔を貼るように」という指示書きです。有力な武家に喜んでもらえるよう金箔を贅沢に使い、大型の画面に、日本人に人気の画題・西洋の騎馬像を描いたのでしょうか。
馬の体や、画面手前の丸い飾りは立体的!影をつける陰影法のテクニックです。そのほか遠近法や水平線など、「西洋のものの見方」が生み出した目新しい表現を駆使。一方、画材は紙に岩絵具や墨、金箔など日本古来のもの。「初期洋風画」では、日本とヨーロッパの絵画技術がとけあっているのです!
描かれた騎馬像の元ネタ
宝石で彩られた冠や帽子、華やかな衣装をまとい、剣や杖を手にする王様たち。穏やかな眼差しは、宗教画を長年制作してきた画家たちの経験がにじみでているのかもしれません。
4人いますが、もとは合計8人の騎馬像でした。ご覧の4人はキリスト教国の王で、右から、ペルシア王、アビシニア王(エチオピア王)、フランス王アンリ四世。そして一番左はギーズ大公フランソワ・ド・ローランもしくはカール5世といわれます。ほかの4人の絵は神戸市立博物館に伝わり、異教の王とキリスト教国の王が向かい合う構図になっています。
手本にしたのは、1600年代初めにアムステルダムで刊行された世界地図といわれています。なんと地図の周囲を縁どる小さな騎馬像を40倍ほどに拡大して描き、独自に色をつけたというから驚き!馬や服装は、銅版画集「ローマ皇帝図集」も参考にしたとか。西洋画を習得した見事な腕にあっぱれですね。
でもデッサン力は完ぺきとまではいかなかった様子。
アビシニア王の右脚にご注目ください。
戦火を生き延びた奇跡の屛風
8人の騎馬像は、もともと、会津若松城(鶴ヶ城)にあったといわれています。会津は、キリシタン大名の蒲生氏郷(がもううじさと)が治めた時期もある、キリスト教に理解のある風土。キリスト教が弾圧された江戸時代、250年にわたって、この城に秘蔵されたといわれます。
幕末、幕府軍と新政府軍との戦い、戊辰戦争が勃発。幕府方の会津藩は破れ、鶴ヶ城は新政府軍に明け渡されました。8人の騎馬像は戦火を免れ、うち4人の部分は、新政府軍の武将、前原一誠(まえばらいっせい)に贈られました。そして、のちに神戸の南蛮美術コレクター・池長孟(いけながはじめ)の手を経て、神戸市立博物館に寄贈されたということです。
一方、ご覧の4人の部分は、戊辰戦争当時の会津藩主、松平家に残り、のちに東京空襲を生き延び、やがてサントリー美術館の所蔵となりました。戦火や関東大震災など、様々な危機を乗り越えてきたこの屛風の木枠や箱には、生々しい焼け跡が残っています。
歴史の波をかいくぐり奇跡的に伝わったんですね!眺めていると、大航海時代の宣教師、セミナリヨで学んだ日本人画家、戦国大名や戊辰戦争の武者たち……様々な顔が浮かんでは消えていくようです。
さて次回は、お花見シーズンを先取り!桃山時代の花見を描いた華やかな屛風をご紹介します。