「桃山百双(ももやまひゃくそう)」という言葉があります。「桃山時代に描かれた百双の屛風」という意味。
それだけたくさんの華やかな屛風が作られた時代だったのですね。
天下人、豊臣秀吉は大の派手好き。大坂城や伏見城など多くの城を築き、きらびやかな襖絵や屛風で飾りました。最晩年、京都・醍醐寺で、盛大に「醍醐の花見」を催したことでも知られます。
それから400年以上を経た今も、お花見は日本の春の風物詩。今年も待ち遠しいですね。桃山時代の人々も、お花見が大好きでした。身分を問わず桜の下に集まって思い思いに楽しんだのです。今回は、その様子を今に伝える、桃山時代の「花下遊楽図屛風(かかゆうらくずびょうぶ)」をご紹介します!
優雅な花見酒 VS 風流踊りで大騒ぎ!
まずは右隻を見てみましょう。ここは京都の祇園社(ぎおんしゃ)です。
右手には、赤い毛氈(もうせん)が敷かれ、女性たちが華やかな着物の裾を広げて座っています。その前には、お酒やお弁当。双六(すごろく)で遊ぶ女性もいます。左に目を移すと、身分の高い男たちが、踊りを眺めながらゆったりと花見酒を楽しんでいます。その後ろには水墨画が描かれた屛風が立ててありますね。こうして屛風を外に持ち出して使うなんて、なんともおしゃれですね!
屛風の向こう側はとってもにぎやか。当時流行した風流踊り(ふりゅうおどり)です。いわば盆踊りの原型で、お盆、お花見などさまざまなお祭りで行なわれました。
「風流」とは、華やかな趣向を凝らす美意識のこと。大きな作り物を上に乗せた風流傘を中心に、男女皆で輪になって踊ります。この風流傘は何のかたちでしょう?大きく羽を広げていますね。中国から伝わった伝説の鳥、「鳳凰(ほうおう)」です。
輪のなかには、鼓(つづみ)を持つ男たちもいますよ。にぎやかな音が聞こえてきそうですね。
今に伝わる狂言小歌には、風流踊りの楽しげな様子が歌われています。
「祇園囃子に吹く風の、笛を吹き鼓打ち、風流の品ぞ面白や面白や」
踊り手たちの衣装にもご注目ください。白と赤の揃いの着物に、金の扇。お祭りでは、揃いの着物を着たグループ同士で、踊りを競うこともあったそう。現代のよさこい踊りみたいですね!
桃山時代のコスプレ好き発見!?
輪のなかには仮装を楽しんでいる人も。さあ、探してみてください。
まずは、白い大きな袋を肩から担いで、顔を青く塗っている人。――これは大黒様の仮装です!その右隣で、魚がかかった釣り竿を肩に置いているのは?――恵比須様!さらに右には、髪を結い上げ、額に黒い丸の眉を描いた人がいます。――こちらはお多福です。その左手前の人は、ずいぶん高い帽子をかぶっていますね。南蛮貿易で輸入された西洋の帽子でしょうか。
仮装の人がいっぱいいて、まるでアニメのコスプレイベントや、マラソンランナーの仮装みたい!?桃山時代も今と同じで、庶民は思い切りお祭りを楽しんでいたんですね!
踊りの輪の先、画面左には、猿回しの二人組。
おやおや、猿が犬に追いかけられています。
犬猿の仲そのものですね
琵琶法師はどこ?細部まで楽しい屛風鑑賞
続いて、左隻を見てみましょう。舞台は、京都・上賀茂神社(かみがもじんじゃ)。こちらでも、画面の中央で風流踊りが行なわれています。
輪の真ん中で風流傘を持つ人は、大きく膨らんだズボンに帽子。南蛮人でしょうか?じつは、日本人が南蛮人姿に仮装しているんです。南蛮人は、海の向こうから珍しい宝物を持ってやってくる存在で、福の神のイメージにそっくり。だから南蛮人の仮装も、お祭りにふさわしい、おめでたいものだったのです。
左隻の右下では、藤の紋を染めた陣幕(じんまく)が張られ、墨染の衣を着た人物と、美しい女性たちがたわむれています。その左手で、白装束で荷物を背負うのは、諸国を廻る旅の僧、高野聖(こうやひじり)です。
風流踊りの輪の左下には、琵琶法師が一人。
肩にさげる黒い袋には、琵琶が入っています。
画面左には、魚や鳥をさばく調理人の姿が。
これから宴に集うご主人たちを迎えるようです。
金雲は便利な大道具
画面の上下が金雲で分けられているのにお気づきですか?金雲は、画面を華やかにするうえ、場面の区切りにも便利なんですね。そして工夫がもう一つ!上下のうち、下側の人物をやや大きく描き、遠近感を出しています。
ところでこの屛風には謎があります。それは作者です。「天木宗仲(あまぎそうちゅう)」なる人物の印が捺されているものの、どんな人物かは分かっていません。それに印は普通、一双の屛風の両端に捺されるはずですが、この屛風では右隻と左隻を並べると印が真ん中にきてしまいます。ますます謎が深まりますね。
それにしても、桃山時代らしい、おおらかで開放的な雰囲気のなか、お花見に集う人々のエネルギーを描いた絵師の腕は秀逸!大名たちは、こうした「花下遊楽図屛風」を部屋に飾り、一層春を満喫したのでしょう。
7回に渡ってお伝えしてきた屛風の世界、いかがでしたか?展覧会で屛風に出会ったら、かつてどこかのお城や邸宅を飾っていた様子を想像すると、一層楽しめそうですね。
さて、次回からは西洋ガラスのシリーズが始まります。