私たちがよく耳にする「琴の音」は、実は「箏(こと)の音」であることをご存じですか?箏は奈良時代、雅楽とともに中国から伝わり日本で花開いた楽器ですが、現在○○流などと一般的に親しまれているのはこの「箏」なのです。
では「琴」は間違いなのかというとそうではなく、まず「和琴(わごん)」という日本固有の楽器が存在します。別名「やまとごと」ともいい、皇室や、奈良・春日大社での伝統行事で今でも用いられています。
そして「箏」と同じく奈良時代に中国から入った「琴(きん)」という楽器もあり、平安時代には本場中国人にもひけをとらない琴奏者も現れたそうですが、日本の音楽文化になじまなかったのか、明治時代に入るころには途絶えてしまいます。
そもそも昔は「弾きもの」全般を「こと」と呼んでいたそうです。一時期の琴の台頭により「弾きもの=こと=琴」という認識が広がったものの、時代とともに琴が廃れ、箏が主流になった今でも、人々のなかに「こと=琴」のイメージが残ったのかもしれませんね。
そういうわけで、今回のコラムのタイトルも「琴」としています。
ペットのように名前をつけられていた和楽器たち
第60代天皇・醍醐天皇(885~930年)。
所持していた箏「秋風」は天皇没後、一緒に御陵に葬られた。
平安時代、宮廷人たちはいくつもの楽器を所有し、ペットのように名前をつけて愛でていたのだとか。醍醐天皇の箏の名前は「しら丸」、「鬼丸」、「秋風」といい、特に天皇のお気に入りだった「秋風」(その音色から名づけられました)は、今は天皇と一緒に御陵に眠っています。村上天皇が所有した箏の名前は「大螺鈿(だいらでん)」。おそらく、光る貝殻の見事な装飾がちりばめられていたのでしょう。
箏の各部には“竜”にちなんだ名前がつけられています。特に雅楽※で用いられる「飾り箏」には、至る所に竜が表れています(下図参照)。もともと箏全体の形が竜に似ているからなのかもしれませんが、「(竜のように)天を舞うような音を出したい」という願いが込められているともいわれています。
平安時代から江戸時代にかけて、箏の奏者には女性が多かったそうです。これはこの時代、管楽器の演奏が男性にしか許されていなかったことに関係しているかもしれません。女性は、箏を演奏している間だけ男性中心の社会から抜け出し、竜のように自由に空を舞っている気分でいられたのかもしれませんね。
また、普段は見えない竜舌の部分に金の蒔絵をほどこし、オシャレを楽しんだり・・・箏にはさまざまな楽しみ方があったようです。
日本人の美意識や文化の中で、長い時間をかけ完成された和楽器。奈良・東大寺の正倉院には魅力あふれる和楽器が多く所蔵されており、その数18種75点。同院のホームページでも詳しく紹介されています。
※雅楽…日本固有の古楽に大陸伝来の音楽や舞が加わり融合した芸術。宮中の儀式などで演奏される。
箏が活躍する邦楽作品の中でも最も親しまれている「春の海」を始め、さまざまな邦楽器が登場する作品の数々を集めたアルバム。箏の他に、三味線や尺八など邦楽独特の鳴り物から雅楽までを網羅した、日本の伝統音楽の魅力が満載の1枚です。
「聴く! 日本のお正月~春の海・越天楽~」